第10回環境研究シンポジウム

講演9 多媒体環境における放射性物質の実態把握・動態解明

講演者:(独)国立環境研究所 地域環境研究センター センター長大原 利眞

 東日本大震災からの復旧・復興にあたり、環境中に拡散した放射性物質への対応を着実かつ早急に行うことが、喫緊の課題となっている。しかし、放射性物質によって一般環境が広く汚染される事態への対処は我が国で経験がなく、また、そのために必要な科学的知見が極めて不足している。

 そこで国立環境研究所では、福島第一原子力発電所事故によって環境中に放出された放射 性物質の実態を把握し、動態を解明して今後の動向を予測すること、並びに、放射性物質が人や生物に与える影響を評価することを目的として、事故直後から「多媒体環境における放射性物質の実態把握・動態解明研究」を進めている。

 本研究は、多媒体環境での放射性物質の動態計測、モデリング、及び影響把握を研究の軸とする。多媒体環境モデリングでは、大気、土壌、森林、河川、湖沼、沿岸海域などの多媒体環境での放射性物質の挙動を把握し、将来予測するために、広域的な大気・陸域(多媒体)・沿岸海域を対象としたシミュレーションモデルを構築する。一方、環境動態計測では、重汚染地域として福島県東部の宇多川流域、軽汚染地域として霞ヶ浦流域を重点対象地域としたフィールド観測によって、放射性物質の実態と移行メカニズムを解明する。動態計測データをシミュレーションモデルの開発・検証に活用し、一方、モデルを使って動態メカニズムを解釈することにより、モデリングと動態計測を統合することによって、環境多媒体での汚染実態と放射性物質の蓄積・移動の実態を把握し、将来を予測する。更に、放射性物質による人と生物への影響を評価するために、人曝露量に関するモニタリング及びモデリングによる解析、植物・ほ乳類・菌類を対象とした遺伝的影響調査を実施する。

 本講演では、国立環境研究所が実施している、放射性物質による環境汚染を対象とした分野横断・統合アプローチ型環境研究の概要、これまでに得られた成果、今後の課題について紹介する。