第10回環境研究シンポジウム

講演8 作物・農地土壌の放射能汚染の実態と対策

講演者:(独)農業環境技術研究所 研究コーディネータ谷山 一郎

 2011年3月11日の東日本大震災に伴い東京電力福島第一原子力発電所において炉心溶融事故が発生し、多量の放射性物質が外部環境に放出された。このため、事故直後は野菜類な どで放射性ヨウ素や放射性セシウムによる食品の暫定基準値を超えた汚染が発生した。その後、半減期の短いI-131は検出されず、半減期の長いCs-134やCs-137による主に土壌を経由した間接汚染へと移行し、福島県を中心に玄米などで基準値を超えるものが検出された。

 福島第一原発由来の農地土壌中の放射性セシウムは東北から中部地方まで検出されている。特に福島県では、福島第一原発から北西方向に放射性セシウム濃度の高い農地が分布し、中通りに沿って1,000Bq/kg以上の濃度を示している。

 福島県の2011年産玄米の放射性セシウム濃度は、土壌中の放射性セシウム濃度とは明確な関係がなく、土壌中の交換性カリウム含量と負の関係が認められ、放射性セシウムの吸収はカリウムと拮抗作用があることが明らかとなった。その他にも、玄米中の放射性セシウム高濃度のさまざまな要因が指摘されている。

 玄米中の放射性セシウム濃度を低減させるには、カリ肥料の増投が有効であり、放射性セシウムを固定させる能力のある土壌改良資材が土壌によっては効果があることが明らかにされた。除染については、化学的除染や植物を利用したファイトレメディエーションはほとんどの土壌で効果がなく、懸濁除去法や土壌剥ぎ取りなどの物理的除染が有効である。