第10回環境研究シンポジウム

講演1 観測データからみる極端な気象現象

講演者:国土交通省気象庁気象研究所 環境・応用気象研究部 室長藤部 文昭

 大雨・強風など極端な事象の強度や頻度を観測データから推定するために、極値統計手法が使われる。極値統計手法では、観測データにGumbel分布や、これの拡張である一般化極値分布(GEV)等の極値分布関数を当てはめて再現期間(ある値の事象が、何年に1回の割で起きると予想されるか)や再現期待値(50年、100年に1回の確率で起きると予想される降水量はどれほどか)を推定する。

 しかし、時として極値分布から外れる観測値が現れることがある。例えば、1896年に彦根で観測された日降水量596.9mmは、20世紀以降のデータから計算される再現期待値を大きく超える。こうした特異事例の存在は、極値統計手法の数学上の前提に比べ、自然の変動が複雑多彩であることを反映すると考えられる。極端に大きい日降水量が現れるのは、雨の強さと持続性(停滞性)という2つの要素が重なった場合であり、このような気象学的情報を極値の評価にどう反映させるかが課題であろう。

 長期的な気候変動という観点から見ると、大雨や強い降水は世界的に増える傾向にあり、その主因は気温の上昇に伴う水蒸気量の増加にあると考えられる。日本でも、過去100年余の日降水量データから、大雨の頻度や強さの増加傾向が確認される。また、1980年代以降は気温の上昇が顕著になり、1時間、10分間という短時間強雨の増加傾向が見られる。極端事象の発現頻度や長期変動をより精度良く評価するため、過去のデータや付随情報の整備・共有の促進が望まれる。

 本講演では、大雨の極値統計における特異事例を紹介し、それに対するとらえ方を議論するとともに、気候変動に伴う大雨の変化について解説する。