第10回環境研究シンポジウム

基調講演 歴史研究と災害研究

講演者:東北大学災害科学国際研究所 所長平川 新

 東北大学は2012年3月11日の東日本大震災をうけて、本年4月1日に災害科学国際研究所を設置しました。研究所は7部門36分野からなります。理系・医学系から文系まのでの幅広い 分野の研究者が結集しました。平常時にはとても実現不可能なこうした態勢が整ったのは、全学をあげて東日本大震災の被害に立ち向かい、被災地の復旧・復興に貢献しなければならないという強い意思があったからです。

 研究所を構想するにあたっては、災害の全サイクルに対応できるような部門・分野の構成とすることを心懸けました。地震・津波の発生メカニズムから、地震警報・津波警報の精度向上や効果的な情報の出し方を研究する分野。地震・津波の被害の調査研究を行い、地震・津波対策を研究して社会の防災力を高める研究分野。被災した人々を救済する災害医学の分野も大切です。人間や社会に焦点を当てて、人間の心理や文化、歴史、社会システムのあり方などから災害研究にアプローチする分野も設けました。

 文系の分野の一つとして、私が専門とする「歴史資料保存研究分野」を立てました。なぜこ うした分野が災害科学に必要なのでしょうか。歴史学は過去の古文書に書かれた諸種の記事を分析して、地域の歴史、日本の歴史を解明していますが、地震や津波、風水害など自然災害に関連する記事も記されています。とくに地震・津波の記事は、各地域の地震・津波の周期性や被害規模を想定する根本史料となります。古文書の記録から算定された地震・津波の周期性をもとに社会は災害対策を進めます。古文書なくして防災対策は不完全になってしまうのです。歴史を知り歴史を学ぶことが災害への備えを促すという、文理連携研究も本研究所では推進していきます。